ユングサロン再開のお知らせ
世界的なコロナ感染症流行の状況を受けまして、ユングサロン企画は一昨年から休止になっておりました。まだまだ流行は予断を許しませんが、この度、状況を鑑みながら、オンライン配信も取り入れる形で、ユングサロンを再開する運びとなりました。手探りでの再開と言って差し支えないところではありますが、様々な話題を再び皆様方と分かち合えることを楽しみにしております。お気軽にご参加いただけますと幸いです。
令和4年2月1日
ユング心理学研究会 会長
白田 信重
第1回 1月17日
『波の地図』で歩く元型的世界 〜生まれて、伝わって、届くものたち〜
< zoom配信 参加無料>
講師:原田佳夏・なかひらまい
ナビゲーター:白田信重(当会会長)
「波」にまつわる様々な現象を博物学的にまとめて好評を博している『波の地図』(雷鳥社)。この本は、ユング心理学研究会理事の2人(原田佳夏・なかひらまい)による初の著作です。「波」という捉えどころのない現象は、文様や言葉、名称などに表現されて「無意識」に日本列島の文化に息づいてきました。「波」の背後にある元型的な世界とはどんなものでしょうか。当会会長の白田信重氏を交え、著者の原田佳夏氏となかひらまい氏に、「波」についてお話ししていただきたいと思います。長らくコロナによって休止していたサロンが、これを機にようやく再開の運びとなりました。『波の地図』はユングサロンに、新しい波を起こしてくれることでしょう。皆様の参加をお待ちしています。
※ 本を読んでいなくとも参加可能です。
■ 日時:2022年2月17日(木) 19:00〜21:00
■ 会場:オンライン開催(zoomミーティングルーム形式)
■ 参加費:無料
■ 参加方法
以下のイベントページにて参加申し込みができます
https://jungsalon20220217.peatix.com
■ 主催:ユング心理学研究会 http://jung2012.jimdo.com/
■ 問い合わせ:ユングサロン事務局 [email protected]
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『波の地図』概要
【その波に乗って、知らない世界を旅しよう】
「波」は、海の波だけではない!? 数々の文様に描かれたり、「波乱万丈」「人波にもまれる」といった慣用表現に使われたり、「電波」「音波」など物理の世界は「波」だらけだったりする。本書は「文化としての波」をテーマに、たくさんの文献資料をもとにした文章と楽しいイラストで構成。肩の凝らないアート本としても楽しめる、知的好奇心あふれる一冊です。
● 書籍紹介
『波の地図』原田佳夏・なかひら まい(雷鳥社)
税込み定価:1,650円(本体+税10%)
ページ数:320ページ/オールカラー
判型:新書サイズ
製本:ハードカバー
ISBNコード978-4-8441-3781-8
Amazonで購入:https://amzn.to/3hAEfW6
● 著者プロフィール
構成・文 原田佳夏 Yoshika Harada
物語屋。「朗読歌劇そらのおと」座付作家。ユング心理学研究会理事。出身・大分の地元に材を取ったオリジナル作品など舞台脚本多数。講談台本も手掛ける。映画脚本『老親』(監督:槙坪夛鶴子/2000年)、著作『脚本を書こう!』(青弓社)、120字小説『すゆ噺』他。映像・舞台・音声脚本、短編小説等、「物語」を書き続けている。小劇団の座付作家を経た後、物語屋として独自の路線を歩む。
絵・文 なかひら まい Mai Nakahira
画家・作家。ユング心理学研究会理事。多摩美術家協会会員。セツ・モードセミナー卒業。著作『スプーの日記』シリーズ三部作(トランスビュー)。古代伝承研究本『名草戸畔 古代紀国の女王伝説』(STUDIO M.O.G)。毎日新聞・大阪本社版連載童話『貝がらの森』(STUDIO M.O.G)。物語創作、伝承研究、絵画、イラスト制作などを通して日夜、独自の視点でモノノケの世界の本質を探求している。
8月18日 夏季特別企画
ユングスタディ・サロン 2022年夏休み共同企画 < zoom配信・参加無料 >
ユングの心霊論を読む
講義録
*** 録画アーカイブを一般公開しました! ***
https://youtu.be/n_84q7k2Br4
8月18日に、ユングスタディ・サロン 2022年夏休み共同企画、「ユングの心霊論を読む」が行われました。ユングの心霊論に関わるテキストを読んでいくという企画です。
ユングは生涯を通して、心霊的なるものに関心を持ち続けていました。女性の親族がみな霊媒体質を強く持つという環境に育ち、学生時代には熱心にスピリチュアリズム関連の著作を読みあさります。精神医学を学んだユングは、博士論文「いわゆるオカルト現象の心理と病理」で、自分のいとこにあたる女性霊媒師の心理を取り上げ、その女性霊媒師に降りてきた霊を、女性内部の部分的人格の現れであるとしました。
心理学的観点から見た意識と無意識とのやりとりは、伝統的な文化の中では「死者の霊との交流」という形で受け取られてきたものだとユングは考えていました。ゆえにユング心理学は、本質的に心霊の問題とパラレルなものでもあります。ユングは『自伝』の中で、以下のように述べています。
「私の著作は基本的には、「此世」と「来世」との相互作用の問題に対する回答を与える試み──常に更新されていく試み──に他ならない」 (『ユング自伝』II、河合隼雄他訳、みすず書房、1976.5、p.137)
ユングは最初、「霊の憑依」など一般的に霊現象と呼ばれている事象について、実際に霊が実在するかどうかについては保留し、ただその心理学的側面のみに注目するという態度を取っていました。しかし次第に、やはり霊は実在するのではないかという考え方に傾いていきます。また、霊がいるという素朴な受け取り方の方が、心理学的観点からの説明よりも、その当人にとって重要な意味や働きがあるのではないか、とも考えるようになります。
こうしたユングの心霊観を見るべく、今回の企画では、心霊に関してユングが述べている二つのテキストを取り上げました。これらテキストの邦訳を、俳優の近童弐吉さんによる朗読で聴いた後に、改めてテキスト文面を見て、読み込んでいきました。
まず最初のテキストは、ユングが1920年の夏、ロンドン郊外の幽霊の出るとされていた田舎家に滞在した時の、自らの心霊体験について述べた文章です。(『オカルトの心理学』島津彬郎・松田誠思訳、サイマル出版会、1986.9、p95-106、原文・1950)
ユングは週末ごとの滞在において、夜になると、ある種の麻痺状態に加え、いやな臭いや妙な音、落ち着きのない雰囲気に苛まれます。そしてついには、枕元に、顔の左半分がない老女の顔が現れるのを見ることになります。
これは一般的には「老女の霊が出る家」として理解されるところですが、ユングは自らの状態の詳しい観察を通して、これを、自身の意閾下の直感的知覚が、催眠様の状態下で意識領域に入ってくる際に構成されたイメージだとして理解します。嫌な臭いと老女の顔のイメージは、ユングがかつて診た、開口性の癌を患った老女の様子と臭いに結びついていたと考えられます。
つまるところ、ある挑発的性質を持つような、無意識的領域での知覚や心的状況の活性化があるとき、これが意識化される際には、具体化したイメージの知覚として伝えられるわけです。霊現象と呼ばれるものが、意識と無意識との関係性の中から現れる心理的な現象に関わっていることが示唆されます。
二つ目のテキストは、ユングが1930-1934年に行なった「ヴィジョン・セミナー」の記録の中からの抜粋です。ユングはここで参加者からの質問に応えていきますが、それは「もしも幽霊屋敷に一晩泊まることを強いられたら、どんな実際的な魔術の儀式が使えるでしょうか」というものでした。(『ヴィジョン・セミナー』 氏原寛・老松克博監訳、創元社、2011.12、p.1267-1270、1933年11月22日)
ユングはここでは、幽霊屋敷の問題をあえて拡張して考察しているように見えます。集団心理の中に取り込まれた人間の心理について述べ、そこから、何かに取り憑かれていると表現できるような「まちがった状況」において、人は何ができるのかを語っています。
そうした状況において、直接に「そのまちがいを正す」ことは、その状況の中に自分が入り埋没していくことなので、意識のレベルの低い神秘的融即の状態に降っていくことを意味します。例えば、群衆を直接に正そうとすることは、結局は集団心理の状態に自ら入っていくことになり、自らは「はじめは完壁に正しかったのに、すぐにまちがってしまう」、「自分が戦おうとした悪にやられる」ことになってしまいます。これは危険で、やるべきではありません。
ユングがここで行うべきとするのは、「みずからを正しくすること」です。例えば、群衆のなかのひとりが正しければ、それが広がって群衆が正しくなるチャンスがある。自分自身を浄めれば、間接的に状況を改善することができるかもしれない。それがその場所のまちがいと戦ったことになり、ひょっとしたら「幽霊を打ち倒したこと」にもなるかもしない。
そしてユングは、もし状況がよくならないのであれば、よくなったその人自身がその場から立ち去ればいい、とします。すべての幽霊を倒したり、あらゆる状況を改善したりすることは不必要であり不可能である、もしもそれがよくならなければ「最善の方法は、幽霊ではなくその人自身を取り除くこと」である。
幽霊というものが、当人の心理も含めた、その場所の全般的状況に関わって現れてくるものであれば、その中で自分を見つめて自分自身に立ち返ることが、幽霊の現れ方を変えていくことになる。人間の現れ方を、意識と無意識、環境までをも含めた大きな全体のシステムの中で考えるユングの視点が、ここには感じられるでしょう。
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今回企画はセミナールームからの配信で行いましたが、運営スタッフは間近で近童弐吉さんの朗読を伺っていました。近童さんによる、まるで何かに「取り憑かれた」かのような演劇とも言うべき朗読は、たいへん迫力のあるのもので、幽霊屋敷でユングが感じた嫌な感触をこちらにまざまざと蘇らせたり、セミナーでのユングの熱意ある語り口を伺わせたりするものでした。語りを皆で聴く、という元型的行為が開いていく「魂」というものを、改めて感じさせられたところです。
写真は、配信の際のものです。ホワイトボードの絵は、当会理事でイラストレーターのなかひらまいさんによるものです。この会の雰囲気をよく表した、なんとも言えない味のある印象です。
開催通知
ユング心理学研究会のユングスタディ部門、およびユングサロン部門の共同主催にて、夏休み企画「ユングの心霊論を読む」を開催します。
ユングの思想が心霊主義の影響を強く受けていたことは、よく知られています。19世紀スピリチュアリズムは、当時の文化人を巻き込んだ大きなムーブメントでした。
ユングは、女性の親族がみな霊媒体質を強く持つという環境に育ち、学生時代には熱心に19世紀スピリチュアリズム関連の著作を読みあさります。精神医学を学んだユングは、博士論文で自分のいとこにあたる女性霊媒師の心理を取り上げます。その論文において、その女性霊媒師に降りてきた霊とは、実はその女性の中にある部分的人格であり、女性の中に潜在する心理的成長の現れであったとされます。
心理学的観点から見た意識と無意識とのやりとりは、伝統的な文化の中では「死者の霊との交流」という形で受け取られてきたものだとユングは考えていました。その意味で、ユング心理学は「この世とあの世の交流」に関わるものとなります。
昨年8月、当研究会では、夏休み企画として「ユング『霊の信仰の心理学的基礎』を読む」を開催しました。ユングはこの講演録の中で、いわゆる心霊的なものの実在については意見の保留を行い、霊に関わる信仰をあくまで心理学的事象として考察しています。
ユングはここで、様々な伝統的信仰の中に共通して広く見られる観念として、「霊 spirit」と「魂 soul」という二つの概念を挙げます。「魂」を失うと病になるが、対照的に「霊」はそれが侵入してくると病になる。ユングはこの二類型を、それぞれ自身の心理学における個人的無意識と集合的無意識の概念に相当するものとして考察していきました。
今年の企画では、これに引き続く形で、彼の心霊に対する心理学的観点を伺えるテキストを二つ取り上げていきたいと思います。
一つは、ユングが1920年のロンドンでの滞在時に、自ら体験することとなった幽霊屋敷での出来事を報告する文章です。ユングはその自身の体験を綴ったのちに、精神医学的観点から様々な考察を加えていきます。
二つ目は、ユングが1930-1934年に行なった「ヴィジョン・セミナー」の記録の中からの抜粋です。ユングはここで参加者からの質問に応えていくのですが、それは幽霊屋敷においての心理的対応と、幽霊の実在についての問いでした。
これらのテキストを、俳優の近童弐吉さんによる朗読で聴いたのちに、案内役からの解説を加えて読み込んでいきます。最初のテキストでは怪談聞き語りの雰囲気を、次のテキストではユングのセミナーの様子を想像しつつ、聴いていただければと思います。
今回は夏のお楽しみ企画ということで、参加無料となります。皆様お誘いの上、気楽にご参加いただけますと幸いです。
なお、今回の企画の録画アーカイブは、後日、一般公開する予定です。
案内役:白田信重(ユング心理学研究会)
総合司会進行:海野裕美子(同)
■ 朗読者紹介
近童 弐吉(こんどう にきち): 俳優
名古屋市出身。状況劇場を経て、新宿梁山泊旗揚げに参加、90年代を主演俳優として過ごし、海外公演を含む数多くの作品に主演。退団後はフリーとなり、大劇場から小劇場まで、劇団客演等、出演した芝居は100本を超える。直近では、ルー大柴さんとコンビを組んだコメディ「TOC TOC あなたと少しだけ違う癖」や「野良犬譚」他に出演。
TVでは高倉健主演
NHK「刑事」の犯人役でデビュー。以来大河ドラマ、二時間サスペンス・連ドラなどゲスト等多数出演、近年は「相棒」「ハンチョウ」「家族狩」他。超人気Vシネマ「日本統一」では50話から親分の1人として連続登場中。映画出演では「夜を賭けて」「死にゆく妻との旅路」などが代表作。近年の出演作は「日本の一番長い日」東郷茂徳「シン、ゴジラ」北野海自幕僚長、「紅い襷」他。
2008年、モルドバ・イオネスコ劇場に文化庁の支援で留学。
■開催日:8月18日(木)20:00 〜 22:00 (開場19:45)
■ 会場:オンライン開催(zoomミーティングルーム形式)
■ 会費:参加無料
■ 参加申し込みページ https://jungstudy20220818.peatix.com
■ 主催:ユング心理学研究会 http://jung2012.jimdo.com/
■ 問い合わせ:研究会事務局 [email protected]